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マンデル・フレミングの理論

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【ウィキペディア】 「マンデル-フレミング・モデル」は、ロバート・マンデル(1932年10月24日 - )とジョン・マーカス・フレミング(1911年 - 1976年2月3日)の2人の経済学者の名前をとっている。以下に解説するいくつかの仮定のもとで、固定相場制や変動相場制における金融政策や財政政策の国民所得に与える影響について、理論的なモデルを提示した。

変動相場制下でのモデルの運用
変動相場制の下では、経常収支の黒字は資本収支の赤字を意味する。言い換えると、経常収支の黒字が継続する限り、対外純資産の増加が続く。外国債券は民間部門が保有する資産の一部を構成する。さらに、ここでは暗黙のうちに、外国債券と国内債券と完全に代替的であるという仮定を置く。すなわち自国通貨建て債券と外貨建て債券の期待収益率が等しい(資産の完全代替性)という仮定である。現実には国債などの債券にはリスクがあるので、リスクテイクを恐れる投資家は、政府支出増で金利が上がってもそこへ投資することを躊躇する場合がある。

財政政策は、金利上昇に伴う消費や投資の落ち込みというクラウディングアウト(crowding out
)だけではなく、通貨高による純輸出の減少という形によって効果が小さくなる。財政拡大は金利を上昇させる圧力を発生させるが、これは開放経済においては他国からの資金の流入を呼ぶこととなる。この資金流入によって金利は一定に保たれる一方で、変動相場制では自国通貨が増価することになる。自国通貨高は輸出減と輸入増をもたらすため外需が減少し、財政拡大によって増えた内需を相殺することになる。

1980年代前半、アメリカでドルが強くなりすぎた原因の1つに、ロナルド・レーガン大統領の供給力重視による法人税・所得税の大幅減税があった。その結果生じた財政赤字の膨張が、アメリカの長期金利を上昇させ、それがアメリカへの資本流入を呼び、ドルが過大評価された。

白川方明

白川方明「現代の金融政策 - 理論と実際」(2008年3月17日)日本経済新聞出版社

p.328
政府が財政支出の抑制(拡大)を図るケースを考えてみる。マンデル・フレミングの理論は単純化された理論モデルであるが、有用な洞察を与えている。すなわち、財政支出の抑制は金利の低下(上昇)を通じて自国通貨の為替レートの下落(上昇)をもたらすが、これは当初の財政支出の抑制額に等しい設備投資の増加(減少)をもたらす。この場合、財政支出の抑制はそれ自体としては需要減少(増加)要因であるが、開放経済の下では、そのことが他の需要項目を増加(減少)させるというメカニズムが備わっている。それにもかかわらず、一定の「必要な対応幅」を想定して金融緩和(引き締め)を行うと、景気刺激効果が強く(弱く)なりすぎてしまう。

白川方明「中央銀行」(2018年10月25日)東洋経済新報社

この間、皮肉なことに、国会の質疑では、同じくマンデルの大きな学問的業績のひとつである「マンデル・フレミングの理論」にもとづき、日本銀行の金融政策が批判された。「マンデル・フレミングの理論」は資本移動のもとでの金融政策と財政政策の効果の違いに光を当てている。これによると、変動為替レート制においては、緩和的な金融政策は金利低下に伴う資本流出から自国通貨安をもたらすことによって景気を刺激するのに対し、積極的な財政政策は金利上昇に伴う資本流入から自国通貨高をもたらし景気刺激効果を持たない。したがって、日本銀行は積極的な金融緩和政策を展開するべきであり、そのためにはマネタリーベースをもっと拡大するべきという主張につながっていった。

私はこの議論には賛同できなかった。財政政策については、日本銀行がゼロ金利政策をとっていることから、財政刺激効果を相殺する金利上昇は生じない。また金融政策については、2つの重要なポイントが無視されている。ひとつは前述のとおり、ゼロ金利制約に直面し内外金利差を拡大させることができない国の苦しみであり、もうひとつは、各国がそうした金融緩和政策を展開した場合の世界経済全体への影響である。後者の点については、「通貨戦争」(currency war)というセンセーショナルな言葉で議論が行われた。