原油相場 米国石油統計について
更新日: 2020年8月13日(木)
石油市場では、「米国原油在庫の減少」を「買い材料」にしているときがある。しかし、当社では「米国原油在庫の減少」=「買い材料」とは思いません。米国の原油処理量が増えていないからです。この点を説明します。
石油市場の国際需給(概要)
石油市場の「国際需給」と言う場合、大手メディアや金融市場の投資資金が見ているのは「米国石油統計」です。とくに、その中の「米国原油在庫」がすべてを代表するかのように取り上げられる。白川前日銀総裁も次のように述べたことがある。
近年の主流派経済学は優れて実証的であり、「現実」を説明しない理論は生き残れない。しかし、この「現実」は多くの場合、米国経済のデータを意味する。したがって、米国で金融危機が起こらない限りは、北欧や日本で金融危機が起こっていたとしても、その現象を分析するインセンティブはあまり働かない。米国は世界最大の経済国であるがゆえに、それ自体が興味の対象になる。データの入手のしやすさという実際的な要因も軽視できない。米国の統計は他国に比べると非常に利用しやすく、世界中の経済学者が米国経済を対象とした研究を行いやすくなっている。そのような「リサーチ産業」の「市場構造」や「産業組織」を前提とすると、米国で金融システムの問題が顕在化しない限り、金融の役割が看過される。
日本の政策論議についても、とくに、米国の主流派経済学者が日本についてどう分析するかに大きく左右される。これが変わらない限り、日本の学者、マスコミ、ひいては政治家の議論や認識も変わらない。日本の中だけで議論してもあまり大きな成果は期待できない。日本の経済や金融政策についての海外の議論は不正確と感じる。中央銀行で仕事をしてきた一人の職業人として、このような状況には耐えられない。
われわれには、常に、こういうフラストレーションがつきまとうわけです。
米国の原油在庫
ロイターやブルームバーグなど、大手メディアは「米国原油在庫の減少」=「需要の増加」とみなす。このため、在庫減少=買いのバイアスで伝える。
原油在庫の減少=需要の増加
原油在庫の増加=需要の減少
しかし、当社は、原油需要は「製油所の原油処理量」に表れていると考えています。
在庫の増減は、かならずしも「需要」を示唆するものではない。原油処理量が増加していないのに、在庫が減少しているのは「輸入の減少」を反映している可能性が高い、当社の判断基準では、原油処理量の増加=先行きの需要の増加
原油処理量の減少=先行きの需要の減少
まず、米国原油在庫を前年同期と比較します。
米国原油在庫(米EIA)
8/07(2020) 5億1408万4千バレル 8/09(2019) 4億4051万0千バレル
7/31(2020) 5億1859万6千バレル 8/02(2019) 4億3893万0千バレル
7/24(2020) 5億2596万9千バレル 7/26(2019) 4億3654万5千バレル
7/17(2020) 5億3658万0千バレル 7/19(2019) 4億4504万1千バレル
7/10(2020) 5億3168万8千バレル 7/12(2019) 4億5587万6千バレル
7/03(2020) 5億3918万1千バレル 7/05(2019) 4億5899万2千バレル
6/26(2020) 5億3352万7千バレル 6/28(2019) 4億6849万1千バレル
6/19(2020) 5億4072万2千バレル 6/21(2019) 4億6957万6千バレル
6/12(2020) 5億3928万0千バレル 6/14(2019) 4億8236万4千バレル
6/05(2020) 5億3806万5千バレル 6/07(2019) 4億8547万0千バレル
米国原油在庫は本年6月のピークから減少しているが、それでも「5億バレル台」はとても多い。前年同期、あるいは「季節平均」をはるかに上回っている。
このあと、米国原油在庫は8月中に「4億9000万バレル」あたりに向けて減少し、本年後半は「4億9000万~4億8000万バレル」になる可能性はあります。米国石油会社が「原油輸入」と「輸出」を調整すれば、在庫も減少すると思います。しかし、われわれが見なければならないのは、原油在庫の増減ではなく、米国製油所の原油処理量を通した需要趨勢です。
米国の原油需要
原油需要を見るのであれば、原油処理量です。
金融市場の思惑人気は「原油在庫の減少=需要の増加」とみなすけれども、「米国の石油精製施設の原油処理量」が伸びていなければ「原油需要の増加」とは言えない。原油処理量が増加していないのに在庫が減少しているときは、石油会社の原油輸入が抑制されているときです。
石油製品の需要が伸びているとき、あるいは先行きの需要の増加が予期されているとき、製油所の原油処理量(稼働率)が上昇します。米国原油処理量の増減を下に記し、前年同期と比較します
米国の原油処理量 単位:1日あたり(米EIA)
8/01-8/07(2020) 1465万8千バレル 8/03-8/09(2019) 1730万2千バレル
7/25-7/31(2020) 1463万7千バレル 7/27-8/02(2019) 1777万7千バレル
7/18-7/24(2020) 1459万5千バレル 7/20-7/26(2019) 1699万1千バレル
7/11-7/17(2020) 1420万6千バレル 7/13-7/19(2019) 1703万4千バレル
7/04-7/10(2020) 1430万9千バレル 7/06-7/12(2019) 1726万7千バレル
6/27-7/03(2020) 1434万7千バレル 6/29-7/05(2019) 1743万8千バレル
6/20-6/26(2020) 1403万3千バレル 6/22-6/28(2019) 1729万0千バレル
6/13-6/19(2020) 1384万0千バレル 6/15-6/21(2019) 1733万7千バレル
6/06-6/12(2020) 1360万0千バレル 6/08-6/14(2019) 1726万4千バレル
5/30-6/05(2020) 1348万4千バレル 6/01-6/07(2019) 1706万4千バレル
本年5~6月と7~8月の違い
米国原油在庫が本年5~6月、過去に例をみない史上最高水準に積み上がったのは、この時期、米国石油会社が4月積み、5月積みのサウジ原油を大量購入したからです。
サウジアラビアは3月9日、4月積み公式販売価格(各油種の調整項)を大幅に値引きし、米メキシコ湾で取引される原油よりも安くした。
このため、米国石油会社はすでにじゃぶじゃぶの在庫をかかえながら、米メキシコ湾より安いサウジ原油の大量購入に動いた。サウジから大型タンカーが毎日、とくに5月は毎日、月間20隻を超えるタンカーが米国向けに出航した。
米国の原油輸入量 単位;1日あたり
週間 原油輸入合計 カナダ産 サウジ産 メキシコ産
8/01-8/07 562万1千バレル 343万8千 29万1千 58万9千
7/25-7/31 601万0千バレル 378万5千 19万0千 53万1千
7/18-7/24 514万6千バレル 328万9千 30万3千 78万2千
4/11-7/17 594万1千バレル 335万4千 46万1千 64万4千
7/04-7/10 556万7千バレル 317万0千 87万2千 49万0千
6/27-7/03 739万4千バレル 291万8千 142万1千 133万2千
6/20-6/26 596万9千バレル 315万4千 82万6千 49万8千
6/13-6/19 654万0千バレル 322万9千 138万1千 75万6千
6/06-6/12 664万2千バレル 308万5千 140万5千 51万2千
5/30-6/05 686万4千バレル 294万9千 151万5千 81万3千
5/23-5/29 617万9千バレル 286万0千 158万7千 77万5千
5/16-5/22 720万0千バレル 327万4千 159万0千 85万5千
5/09-5/15 519万7千バレル 294万6千 64万4千 69万6千
5/02-5/08 539万1千バレル 289万7千 54万8千 64万3千
4/25-5/01 571万2千バレル 317万3千 57万9千 43万7千
4/18-4/24 530万2千バレル 315万4千 36万5千 88万0千
4/11-4/17 493万7千バレル 330万7千 26万8千 46万7千
サウジ原油の米国向け公式販売価格(各油種の調整項)
ASCI(Argus Sour Crude Index)±調整項(OSPs)
油種 3月 4月 5月 6月 7月 8月
エキストラ・ライト +4.90 -2.10 +0.40 +1.40 +2.00 +2.20
ライト +3.25 -3.75 -0.75 +0.75 +1.35 +1.65
ミディアム +1.45 -5.55 -1.55 +0.05 +0.55 +0.85
ヘビー +0.70 -6.30 -2.10 -0.30 +0.10 +0.50
本年(2020)5月~6月の米国のサウジ原油輸入量は凄まじい増加であった。1日あたり150万バレルの輸入は、毎日、大型タンカーでサウジから原油を積み取っていたようなものです。
そして、7月下旬では1日あたり20万バレル程度に激減している。もはや、サウジ原油は、米国市場で競争力はないと思います。
米国原油在庫はこうした輸入動向を反映しており、米国原油在庫の減少が「需要増加」ではありません。