リポート作成要綱
更新日: 2021年11月13日(金)
小林良樹「なぜ、インテリジェンスは必要なのか」(2021年6月)慶応義塾大学出版会
第9章 インフォメーションの分析
下記の点は、リポート作成の必須項目。
分析とは、収集された素材情報をインテリジェンス・プロダクトに変換する作業。
優れたインテリジェンス・プロダクトか否かの判断に当たり最も重要な基準は、「政策決定者の判断を支援するという制度の目的にかなっているかどうか」である。
大前提 客観性の維持
客観性の維持は、優れたインテリジェンス・プロダクトであることの大前提であり、次に掲げる他の4つの基準よりも重要です。
基準(1)時期を失していないこと
優れたインテリジェンス・プロダクトは、時期を失していないものである必要があります。カスタマーである政策部門、特に政策判断者が当該インテリジェンスを必要とする時までに、その手元に届けられている必要があります。
より多くの時間を費やして分析の精度を向上させたり、報告書類の形式をより端正に整えること等も確かに重要です。しかし、そのために報告のタイミングを失してしまうと、当該インテリジェンス・プロダクトの価値は著しく低下してしまいます。場合によっては全く無価値になってしまうこともあります。「時期を失していないこと」の基準は、以降3つの基準より重要です。
基準(2)特定のカスタマーに向けて内容が絞り込まれていること
優れたインテリジェンス・プロダクトは、特定のカスタマーからリクワイアメントを付与された個別具体の課題に焦点を絞って生産・作成されたものであることが望ましいとされます。
「テイラード」(Tailored)を目指すこと。
「焦点がぼけている」「的外れ」を排すること。
尚、「Tailored」(内容の絞り込み)ということは、あくまで個別のカスタマーから具体的なリクワイアメントに応じてより理解しやすい内容のプロダクトを提供することを意味します。分析内容の客観性までもがカスタマーの意向におもねって歪曲されること(カスタマーが不快に感じるであろう「悪い知らせ」の報告を差し控えること)が容認されるわけではない。
基準(3)カスタマーにとって容易に理解可能であること
プロダクトの分量は少ない方が好まれやすいとみられます。体裁面では、長い文書よりも短い箇条書き、文書よりも図表等がそれぞれ好まれる場合もあります。
基準(4)「結論の確度」の明示
結論の確度とは、分析の結論に対して、インテリジェンス・コミュニティがどの程度の自信を持っているかを示すものです。優れたインテリジェンス・プロダクトは、分析に影響を与える様々な要素に関して「何が判明済で何が未判明なのか」をそれぞれ明示するべきとされます。Clear
regarding the known and the unknown.
あるいは、「結論の判断を支持している要素と支持していない要素をそれぞれ明示するべき」と論じられることもあります。こうした配慮は、分析の客観性を担保し、カスタマーをミスリードすることを抑止するためのものです。
但し、実際には短い報告書等の中でそうした事項をすべて明示することは容易ではありません。したがって、実務上は「結論の確度」、すなわち「判断に関する確信の程度」と「実現可能性の評価」が明示されることもあります。