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前川リポート

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白川方明「中央銀行」(2018)東洋経済新報社 P.66
バブル期当時、内需拡大を通じた経常収支黒字の圧縮という考え方は、政府、学者、エコノミストの多数派であった。もちろん、そのひとつの大きな理由は、対日貿易赤字の拡大に苛立つ米国からの強い圧力であったが、別の理由から日本国内でも内需拡大が強く支持されたのである。当時の議論を端的にあらわしているのが、1986年4月に中曽根康弘総理大臣の私的諮問機関である「国際協調のための経済構造調整研究会」がまとめた報告書、いわゆる「前川レポート」である。

このレポートに流れる内需主導型経済という基本思想は正しいし、その実現のためには規制緩和が必要であるとの主張にもまったく同意する。問題はそこにあったわけではなく、内需拡大と経常収支黒字の圧縮という考え方をリンクしたことであった。しかし、前述のように、日本の基調的な経常収支黒字は人口動態や技術革新等の影響による趨勢的な貯蓄・投資バランスを反映したものであった。同様に、米国の経常収支赤字も同国自身の趨勢的な貯蓄・投資バランスによって決まり、日本の内需拡大によって縮小するものではない。それにもかかわらず、国として内需拡大を通じて経常収支黒字を圧縮するという政策にコミットすれば、その帰結は過度の景気刺激策の長期化である。このコミットメントの代償はあまりに大きかった。当時、この問題点をリアルタイムで明確に主張した学者、エコノミストは、私の知る限り、小宮隆太郎だけだった。

(p.62~65)1980年代後半の金融緩和のプロセスは、①国際政策協調、②円高阻止、③内需拡大を通じた経常収支黒字の圧縮、という互いに関連する3つの大きな特色を有していた。金融政策運営の観点からは、これらの考え方のどれもが、その後の金融引き締め政策への転換を困難にする方向で作用した。

(a)円高阻止が国是とされる状況になり、これ以上の円高は許容しないというコミットメントを引き出したルーブル合意を重視する立場にたつと、日本の金利引き上げは協調体制を崩すものとして反対された。円高阻止という考え方にたつと、一般的に金融引き締め政策への転換は難しくなる。(b)そして、長期にわたる金融緩和に最も影響を及ぼしたのは、内需拡大を通じて経常収支黒字を圧縮するという考え方であった。経常収支は財・サービスの輸出入の差であるが、同時に一国経済全体の貯蓄と投資の差でもあるので、両者の趨勢的な動きを考察することによって、経常収支の動向を分析することができる。同じことは外国の経常収支についても言える。実質金利水準は世界全体の貯蓄・投資のバランスの中で決まり、資本は貯蓄の余っている国から不足する国へと移動する。これを財・サービスの世界から見たものが経常収支の黒字や赤字である。資本の流出や流入、経常収支の黒字や赤字は、このような世界経済全体の中で理解すべきことである。大事なことは、経常収支の基調は国内の投資機会や貯蓄の利用可能性の趨勢に依存すること、そしてこれらを左右するのは各国の技術革新や人口動態等の実体的要因であり、金融政策を含めたマクロ経済政策によってコントロールできるものではないという基本認識である。当時の日本はちょうど、生産年齢人口比率がピークを迎えていた時期で、引退後に備えて貯蓄が最も増加する時期にあたり、趨勢的な経常収支がかなり高水準の黒字を計上することは不可避であった。それにもかかわらず、内需拡大を通じて経常収支黒字を圧縮しようとすることは、金融緩和を長期間にわたって続けることに同意したにほぼ等しい。

小宮隆太郎の「前川リポート」批判 ※「ウィキペディア」
経常収支の不均衡は各国を構成する経済主体が最も有利と判断して選択した行動(貯蓄・投資バランス)の結果に過ぎず、互いに相手の所為ではない。また、それは、例え持続的であっても、不利でも不健全でもない。アメリカが双子の赤字になった原因は日本の貿易収支黒字が原因ではなく、正にマンデルフレミングモデルの帰結であって、当時のアメリカが自ら招いた結果である。ロナルド・レーガン政権が国債発行で減税と財政支出の増加を賄うという拡張的財政政策を行った(レーガノミックス)。よって、政府の財政収支は大幅な赤字となった。同時に高騰した実質金利が大量の資本流入を引き起こした。国際収支統計から明らかなように、変動相場制下では資本収支の黒字は経常収支の赤字を意味する。一国の貿易収支又は経常収支の赤字がその国にとって不利であるという考えは典型的な重商主義の誤謬であって、経済学的に初歩的な誤りである。アメリカの経常収支赤字はアメリカの経済主体が貯蓄より消費や投資を選んだ結果であって、同じく日本のその黒字は日本の国民が消費や投資より貯蓄を選んだ結果である。日本の大幅な対米貿易収支黒字は市場の閉鎖性に因らない。貿易障壁の変化の結果は、中長期(趨勢)的な交易条件に影響を及ぼすのであって、変動相場制下では為替レートの変化で相殺されるので貿易収支には影響を与えない。

重原久美春「1991年9月のストックホルムの国際コンファランスの報告」
1991年9月5~6日にストックホルム経済大学が主催した「世界経済における日本」という国際コンファランスの報告
小宮隆太郎・東京大学名誉教授と私が日本側の基調講演者になりました。小宮教授は、戦後の日本経済の発展を振り返って、米国の対日バッシングに対して反論すると共に、欧州の対日理解不足をかなり厳しく批判されました。小宮先生のスピーチは傍聴していた日本の学者が後から言っておりましたが、ややナショナリズムが強すぎ、パネル・ディスカッションの際、オランダの元総理大臣アンドレアス・ファンアクトさんが冒頭手を挙げ、「自分のスピーチには相当欧州に対する自己批判を含めた積もりであるが、小宮教授のスピーチを聞いていると、日本には何も改善すべき点はないと主張されているような印象を受けた。本当にそうなのか」と質問され、これに対して小宮教授は再び欧米は日本を理解する努力に欠けているという見解を強く、しかもかなりの時間をかけて、述べられました。

前川リポート (全文)

報告書                            昭和61年(1986)4月7日
国際協調のための経済構造調整研究会

内閣総理大臣 中曽根 康弘殿

国際協調のための経済構造調整研究会
前川春雄、大来佐武郎、田淵節也、赤沢璋一、大山昊人、長岡實、石原俊、加藤寛、細見卓、磯田一郎、香西泰、宮崎勇、宇佐美忠信、小山五郎、向坊隆、大河原良雄、澤邊守(17人)

我々は昭和60年10月31日、内閣総理大臣から、我が国をめぐる近来の国際経済の環境変化に対応して、中期的な視野から、我が国の今後の経済社会の構造及び運営に関する施策のあり方を検討するよう要請を受けた。

当研究会はこの要請を受け、今日まで約5か月間、合計19回にわたり会合を開催し、自由な立場から討議を積み重ね検討を行ってきたが、ここにその結果を報告する。

一、基本認識

1、我が国経済の置かれた現状

戦後40年間に我が国は急速な発展を遂げ、今や国際社会において重要な地位を占めるに至った。
国際収支面では経常収支黒字が1980年代に入り傾向的に増大し、特に1985年は、対GNP比で3.6%とかつてない水準まで大幅化している。
我が国の大幅な経常収支不均衡の継続は、我が国の経済運営においても、また、世界経済の調和ある発展という観点からも、危機的状況であると認識する必要がある。
今や我が国は、従来の経済政策及び国民生活のあり方を歴史的に転換させるべき時期を迎えている。かかる転換なくして、我が国の発展はありえない。

2、我が国の目指すべき目標

今後、経常収支不均衡を国際的に調和のとれるよう着実に縮小させることを中期的な国民的政策目標として設定し、この目標実現の決意を政府は内外に表明すべきである。
経常収支の大幅黒字は、基本的には、我が国経済の輸出指向等経済構造に根ざすものであり、今後、我が国の構造調整という画期的な施策を実施し、国際協調型経済構造への変革を図ることが急務である。
この目標を実現していく過程を通じ、国民生活の質の向上を目指すべきであり、また、この変革の成否は、世界の中の我が国の将来を左右するとの認識が必要である。
これらを通じ、我が国の経済的地位にふさわしい責務を果たし、世界経済との調和ある共存を図るとともに経済のみならず科学技術、文化、学術面で世界に貢献すべきである。
我が国の目指すべき目標を実現するため、当研究会は以下の基本釣考え方に基づきその具体的方策を提言する。

3、堤言に当たっての基本的考え方

提言に当たっては、自由貿易体制の維持・強化、世界経済の持続的かつ安定的成長を図るため、我が国経済の拡大均衡及びそれに伴う輸入の増大によることを基本とする。

(1)市場原理を基調とした施策
「国際的に開かれた日本」に向けて「原則自由、例外制限」という視点に立ち、市場原理を基本とする施策を行う。そのため、市場アクセスの一層の改善と規制緩和の徹底的推進を図る。

(2)グローバルな視点に立った施策
世界経済の持続的かつ安定的成長によってのみ、日本経済の発展が得られるとの考え方に立ち、我が国の経済構造の是正に自主的に取り組む必要がある。と同時に、世界経済の発展には、各国の努力と協力が不可欠であり、構造調整などの政策協調の実現が必要である。

(3)中長期的な努力の継続
経済構造の是正並びに体質改善については、調整過程が中長期に及ぶため、息長く努力を継続していかなければならない。
しかし、施策の着手については早急にこれを行う必要がある。

二、提言

国際協調型経済を実現し、国際国家日本を指向していくためには、内需主導型の経済成長を図るとともに、輸出入・産業構造の抜本的な転換を推進していくことが不可欠である。同時に、適切な為替相場の実現及びその安定に努め、また、金融資本市場の自由化・国際化を一段とおし進めていく必要がある。さらに、国際協力により世界へ積極的に貢献していくことも重要である。これらの実施に当たっては、税制を含む財政・金融政策の役割も重要であり、特に貯蓄優遇税制については、抜本的に見直す必要がある。

1、内需拡大

外需依存から内需主導型の活力ある経済成長への転換を図るため、この際、乗数効果も大きく、かつ個人消費の拡大につながるような効果的な内需拡大策に最重点を置く。

(1)住宅対策及び都市再開発事業の推進
住宅政策の抜本的改革を図り、住宅対策を充実・強化する。特に、大都市圏を中心に、既成市街地の再開発による職住近接の居住スペースの創出や新住宅都市の建設を促進する。併せて都市機能の充実を図る。
その際留意すべき事項は下記の通りである。

民間活力の活用を中心に事業規模の拡大を図る。そのためには、規制緩和の推進、呼び水効果としての財政上のインセンティブが必要である。
住宅減税の拡充・強化。
地価の上昇を抑制するための措置を講ずる。例えば、線引きの見直し、地方公共団体による宅地開発要綱の緩和、用途地域、容積率の見直し等。
地権者調整の迅速化を図る。

(2)消費生活の充実
経済成長の成果を賃金にも適切に配分するとともに、所得税減税により可処分所得の増加を図ることが個人消費の増加に有効である。また、労働時間の短縮により自由時間の増加を図るとともに有給休暇の集中的活用を促進する。労働時間については、公務・金融等の部門における速やかな実施を図りつつ、欧米先進国なみの年間総労働時間の実現と週休二日制の早期完全実施を図る。

(3)地方における社会資本整備の推進
地方自治体による資本形成の大幅な増加を図ることは、内需拡大の効果を全国的に広げるために不可欠の政策である。そのため、地方債の活用等により地方単独事業を拡大し、社会資本の整備を促進する。

2、国際的に調和のとれた産業構造への転換

国際的に調和のとれた輸出入・産業構造への転換は、基本的には市場原理を通じ推進されるものであるが、次の施策の推進によりその促進を図るべきである。

(1)産業構造の転換と積極的産業調整の推進
国際分業を促進するため、積極的な産業調整を進めなければならない。
このため、中小企業等への影響に配慮しつつ、積極的に産業構造の転換を推進する必要がある。この関連で、現在法律によって推進中の構造改善については、その早期達成を期する。さらに、石炭鉱業については、地域経済に与える深刻な影響に配慮しつつ、現在の国内生産水準を大幅に縮減する方向で基本的見直しを行い、これに伴い海外炭の輸入拡大を図るべきである。
また、産業転換を進めるに当たっては、技術開発、社会及び経済の情報化及びシステム化、自由時間の増大と消費構造の多様化に伴うサービス産業の発展等を促進する必要がある。

(2)直接投資の促進
海外直接投資は、我が国の対外不均衡の是正と投資先国の経済発展の上で重要な役割を果たすものである。近年、海外投資は急速な拡大傾向にあるが、今後、国内雇用・経済への影響等に配慮しつつ、これを積極的に促進すべきである。このため、二国間投資保護協定の締結促進、海外投資保険制度の拡充、国際投資保証機構(MIGA)への参加、その他政府の支援措置の強化を図る。
また、開発途上国における投資環境整備のための経済協力の拡充を図ることも必要である。
一方、対日直接投資についても、金融措置・情報提供の充実等により、積極的に推進する、さらに、技術交流、第三国市場協力を含めた産業協力及び民間を主体とした産業協力機関の設立など人的交流の促進を積極的に推進すべきである。

(3)国際化時代にふさわしい農業政策の推進
我が国農業については、国土条件等の制約の下で可能な限りの高い生産性を実現するため、その将来展望を明確にし、その実現に向けて徹底した構造改善を図る等、国際化時代にふさわしい農業政策を推進すべきである。この場合、今後育成すべき担い手に焦点を当てて施策の集中・重点化を図るとともに、価格政策についても、市場メカニズムを一層活用し、構造政策の推進を積極的に促進・助長する方向でその見直し・合理化を図るべきである。
基幹的な農産物を除いて、内外価格差の著しい品目(農産加工品を含む)については、着実に輸入の拡大を図り、内外価格差の縮小と農業の合理化・効率化に努めるべきである。
輸入制限品目については、ガット新ラウンド等の交渉関係等を考慮しつつ、国内市場の一層の開放に向けての将来展望の下に、市場アクセスの改善に努めるべきである。

3、市場アクセスの一層の改善と製品輸入の促進等

(1)市場アクセスの一層の改善
アクション・プログラム(関税、輸入制限、基準認証、政府調達等)の完全実施を促進する。また、市場アクセスの一層の改善を図るため、市場開放問題苦情処理推進本部(O.T.O.)については、その法制化の検討を含め、機能を強化する。

(2)製品輸入等の促進
製品輸入の促進については、現地生産、中間財・製品の輸入拡大等、国際分業化に資する海外投資をはじめ、構造的諸対策の着実な実施と併せ、更に積極的に取り組むべきである。特に、流通構造の合理化の促進、流通・販売に係る諸規制の見直しを行うとともに、不公正な取引の防止等独禁法の厳正な運用(注)、外国商標に係るものその他の不正商品を排除するための国内体制の整備を図る。

(注)国際契約届出の監視。不当な排他的取引等に対し厳正に対処。並行輸入を不当に阻害する行為の監視。

また、国民に対する輸入促進キャンペーンの強化、海外に対する流通・市場についての情報提供の充実等製品輸入促進策の整備を図るとともに、開発途上国からの製品輸入拡大に資する経済協力の拡充、民間ベースの技術移転等を促進する。

(3)節度ある企業行動
シェア拡大第一主義に傾きがちな企業行動が摩擦を発生させる可能性が大きいこと等にかんがみ、我が国企業においても国際的責任を自覚した行動が望まれる。

4、国際通貨価値の安定化と金融の自由化・国際化

(1)適切な国際通貨価値の安定と維持
内外需バランスの実現には為替市場がファンダメンタルズを反映したかたちで安定することが不可欠である。政策運営上もこれに重点を置いていく必要があるが、為替安定は我が国の政策努力のみでは達成不可能であり、国際的な取り組みが必要である。
現状においては、変動相場制の下で安定の仕組みを考えざるを得ないが、この場合基本的には先進国経済のパフォーマンスに大きな不均衡のないことが為替相場安定の基盤であり、このためには、高度の政策調整が求められる。しかし、市場はファンダメンタルズを常に反映するとは限らず、関係国の協調と介入がその是正に有効である。
基本的な経済政策の国際的斉合性を確保するとともに、各国協調の経験の積み重ねにより将来の安定した仕組みに発展させる努力が必要である。

(2)金融・資本市場の自由化と円の国際化
金融・資本取引の自由化に伴い取引が国際的規模で行われており、我が国も経済的規模にふさわしい金融・資本市場を確立すべきである。これが円の国際化の実現につながることとなる。
このため、金融・資本取引の自由化を更に推進し、非居住者による資金の調達・運用の両面での取引拡大を図るべきである。
従来から、資金調達に比し運用面の国際化が立ち遅れており、今後、資金運用市場機能の整備を進め、調達・運用両面のバランスが確保されることが不可欠である。
資金運用市場強化のためには、

投資資産の多様化。特に短期金融市場の整備が喫緊の課題である。
流通市場の拡大・強化。取引の国際化に伴う制度及び取引面の国際的な斉合化、なかんずく、税制面での国際化が必要である。

5、国際協力の推進と国際的地位にふさわしい世界経済への貢献

国際協力の推進と世界経済への貢献のため、所要の財源につき適切な措置を講じ、以下の施策を実施する。

(1)国際協力の推進

1.開発途上国からの輸入拡大
開発途上国における輸出産業の質的改善と振興に資する我が国からの技術移転と投資増大、市場開拓努力に対する協力の強化等により製品輸人の促進を図る。

2.累積債務問題への対応
金利水準低下への努力の推進、開発途上国への公的資金フロ一の拡充、国際開発金融機関の資金基盤の強化及びその機能の一層の効率化、累積債務の民間金融機関に及ぼす影響についての配慮について、他の先進諸国とともに努力すべきである。

3.経済・技術協力の推進
政府開発援助(ODA)の拡充については、現行中期目標の早期達成に極力努力する。また、民間援助団体(NGO)の活用も重要である。経済、技術協力の内容については、技術協力の拡充、援助人員の養成等ソフト面の重視、グラント・エレメントの改善、混合借款の規制、アンタイド化の推進等を図る必要がある。

4.科学技術・文化面での国際交流の推進
21世紀に向けて新たな科学技術の創造に積極的に貢献する。このため基礎科学技術研究開発を進めるとともに、この分野における国際研究協力を推進する。
海外における日本語普及、日本研究の促進、人物交流の推進、国際放送の強化等を図る。
国際化時代に対応するため、学術研究機関の開放、外国人教師・留学生の受入れ、帰国子女受入れ体制の整備等を行う。

(2)新ラウンドの積極的推進

途上国の関心事項に積極的に対応するとともに、サービス貿易、知的所有権問題等新分野の国際ルールづくりに積極的に参加する。さらに、ガットヘの信頼性を回復するためのガットルールやガット体制の強化を図る。
なお、工業製品関税に関するアクション・プログラムの決定に従って、積極的に関税交渉が推進されることを期待する。

6、財政・金融政策の進め方

以上の提言の実施に当たり、財政・金融政策の果たすべき役割は重要である。
財政政策の運営に当たっては、赤字国債依存体質からの早期脱却という財政改革の基本路線は維持すべきであるが、財源の効率的・重点的配分、民間活力の活用、規制緩和等の工夫を図り、中長期的に、バランスのとれた経済社会を目指し機動的な対応を図る必要がある。
税制については、公平・公正・簡素・活力・選択に加え、国際的見地から見直すべきである。上記の原則に照らし、貯蓄優遇税制については、非課税貯蓄制度の廃止を含め、これを抜本的に見直す必要がある。
金融政策の運営に当たっては内外通貨価値の安定を確保しつつ、内需主導型経済の実現に向け、機動的に運営することが必要である。

7、フォロー・アップ

当研究会の提言について、政府において早急に必要な検討を行い、所要の措置をとり、また、その実施状況を適切にフォロー・アップするため所要の体制整傭を図ることを強く期待する。

三、むすび

我が国の社会経済構造を国際社会に調和したものに変革するという課題の実現に当たっては、政府に課せられた責務はもとより重大であるが、国民ひとりひとりが、国際社会に対する積極的貢献こそ我が国の発展の前提条件であることを明確に認識し、今後、国民的課題として全力を傾注して取り組んでいくことが不可欠である。政府においては、上記の提言の実施について国民の理解と協力を求めつつ、最大限の努力を払われるよう強く期待する。